須賀川市民交流センター tette

須賀川市民交流センター tette(以下、tette)は2019年1月、東日本大震災により使用不能になっていた総合福祉センターの跡地に誕生しました。須賀川市は、復興計画のなかで、市民交流機能や生涯学習機能をもった複合施設を整備することを決定し、2013年9月に整備事業の基本設計プロポーザルを実施しました。最優秀案に選ばれたのは、石本建築事務所と畝森泰行建築設計事務所のチームでした。 このプロポーザルにおいて少しユニークだったのは、いままでにない新しい考え方の施設を創出するために、総合的な設計力をもつ設計事務所と柔軟な発想力をもった若手建築家のチームで提案するJVが選定されたという点です。

須賀川市民交流センター tetteの外観
tetteの外観(撮影:arg)

図書館にとどまらない関わり

当初石本建築事務所からお声がけいただいたときに、argに期待されていたことは、図書館の専門家として設計につながるアドバイスをすることでした。しかしプロジェクトが進むにつれてさまざまな課題や新たなアイデアが出てきました。そのため、図書館や設計業務という枠にとらわれず、このプロジェクトをより良いかたちにするために、図書館以外の部分にも関わっていくことになりました。

本来的な複合施設の可能性

プロポーザルで提案した技術計画書には、人々が手を寄せ合い、重ねて、協力する姿が一つの「丘」になるイメージで、多様な個性が集うみんなの復興のシンボルとなる施設をつくるといったコンセプトが記載されています。

須賀川市民交流センター tette実施設計説明書の施設概要図
出典:須賀川市民交流センター tette | 施設概要 https://s-tette.jp/about/005277.html(最終閲覧日:2023年9月27日)

複合的な施設と謳った公共施設はこれまでもありましたが、本当に複合的かというと、物理的に一体になっているだけの施設が多いのが実態です。長野県塩尻市のえんぱーく(塩尻市民交流センター)等の先行事例も参考に、最終的にtetteでは「複合」から「融合」を目指していくことになりました。

図書館のテーマ配架の構成図
テーマ配架検討資料(2014年11月)(制作:arg)

機能が混じり合って一体化する施設を目指したときに、従来の日本十進分類法で配架している図書館では、コンセプトを表現するのは難しいということ、また、これまでは図書館を利用していなかった市民のみなさんにも日常的に利用していただきたいということを検討した結果、「テーマ配架」を提案しました。テーマごとに配架された書架が館内のいろいろなところに置かれ、それぞれの場所に紐づいた活動を支える。それが、設計側が目指したところへつながっていくと考えました。

須賀川市の大きな課題

須賀川市へ通いはじめた2014年は、まだひび割れた建物が残っていて、東日本大震災の爪痕が感じられました。原発の影響も大きく、「子どもを外で遊ばせられない」という不安の声が市民から寄せられる状況にありました。複合施設として市民の声にどう対峙するかという以前に、居場所がなくなった、安心できる場所がなくなった、という市民の思いに応える必要があるという強い気持ちが、チーム全体にありました。

ワークショップはコミュニケーションそのものが大切

argが図書館コンサルタントとしてプロジェクトに参加するのとときを同じくして、ワークショップの運営を担う市民協働コンサルタントとして、スティルウォーターさんが参画しました。
スティルウォーターさん主導で、「地域のことをみんなで知ろう」という内容のワークショップを開催しました。そこでは図書館等の個別の機能についてというよりも、施設全体として、地域のなかでどうあるべきかという話題が多く話されました。そのなかから、円谷英二さんのミュージアム設置を求める声が熱く語られたり、これまでの図書館や公民館ではできなかったさまざまな活動ができる場所への期待であったり、震災によって居場所がなくなっている状況等がみえてきました。

市民ワークショップで、設計に関する説明を聞く市民
市民ワークショップの様子(2014年8月)(撮影:arg)

ワークショップは、参加者同士のコミュケーションのなかから、その地域で大切なものや必要なものを見つけて、共有していくプロセスが大切だと考えています。ワークショップは答えを求めるものではなく、問いを出しいていくことや、雑談等のコミュニケーション全体を通して、この地域の課題は何?この施設に必要なものは何?ということを想像し続ける行為だととらえ、われわれも支援を続けていきました。

たとえば、シニアの方から図書館よりも養護施設のほうが必要なのではないか、という意見があったとしたら、リサーチをしてその背景を考えます。そうすると、高齢者が話せる場所がないことが問題だということになるかもしれません。それであれば、シニア同士が話せる場所やプログラムを、図書館を中心とした施設に組み込む可能性を検討します。 市民の意見をただ聞き入れるのではなく、意見やコミュニケーションの背後にあるものを、フィールドワークやリサーチを通じて探りだし、より良いかたちへ近づける努力を続けることが大事だと考えて取り組んでいます。

市民の声からスタートした取り組み

須賀川市民交流センター tetteのミュージアムの入口
円谷英二ミュージアム(撮影:arg)

tetteには、市民の声によって設置されたものとして、円谷英二ミュージアムとカフェがあります。須賀川市にはサークル「シュワッち」という、円谷英二さんの功績を後生に伝えている市民活動グループがあり、20年以上活動を続けられていました。須賀川市と協力して特撮関係の企画展を開催したり、これまでの活動の積み重ねがあることがわかり、これは絶対に無視してはいけないという思いから、ミュージアムの企画提案につながりました。

須賀川市民交流センター tetteの1階にあるカフェの様子
1階のカフェ(撮影:arg)

カフェについては、女性や若い人からの要望はあったのですが、ミュージアムと違っていたのは、おじさんと呼ばれる層にはその必要性がまったくわからないという点です。整備に関わっている人の多くはおじさんだったので、女性や若い人たちからの声はかき消されてしまう可能性もありました。そのため、「コーヒーが飲みたい」という一義的なことではなく、カフェのように安心して話ができる場所がないとか、シンボルとしてカフェがあるわかりやすさ等にこだわって提案を進めました。

運営側の理解を促進する仕掛け

市民の声から課題を抽出して問いを立てていく一方、施設運営側も、既成概念から解き放たれて、新しい取り組みを理解するためのきっかけ が必要になる場合があります。司書名vol.27[1]に登場いただいた須賀川市中央図書館司書の岡崎朋子さんは、自分のステレオタイプな図書館像が変わったのは、優れた日本の図書館事例を資料で見たり、他図書館の視察体験をしたことが大きかったと話しています。

市職員が武蔵野プレイス視察時の様子
武蔵野プレイス視察の様子(撮影:arg)

argでは、図書館等公共施設の整備支援業務のなかでも現地視察を重要視しています。tetteの整備プロセスにおいては、多くの視察を実行しましたが、まさに視察が生かされたプロジェクトでした。それも、担当の整備室だけでなく関係する他部署や、図書館・公民館の担当者も同行しました。すべてに全員が参加したわけではありませんが、一緒に行って多くを見て、それについて語り合うということを丁寧に行いました。それは、tetteの整備、運営にとって、とても大きなことでした。

そういった自分たちの経験から、須賀川市は、tetteの視察の受け入れを積極的に行っています。訪れた他自治体に対して、成功体験だけでなく、整備過程でぶつかった壁や今後の課題等も丁寧に説明し、これまで積み重ねてきた視察やtetteの整備、運営で培ったものを次につなげています。

須賀川市民交流センター tetteについては、『ライブラリー・リソース・ガイド』(LRG)第32号、2020年 夏号「融合施設はまちを変えるか-須賀川市民交流センター tette開館1周年」で詳しく特集しています。ぜひご覧ください。

(文 酒井直子、語り手 李明喜)

tette テッテ 須賀川市民交流センター
https://s-tette.jp/

開館日:2019年1月11日(金)
住所:福島県須賀川市中町4−1
建物面積:約4,877㎡(延床面積約13,699㎡)
収蔵冊数:約30万冊
須賀川市の人口:73,138人(2023年9月1日現在)


[1] ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)第32号、2020年 夏号