離島にできたコミュニティ図書館
日本海に浮かぶ島根県の離島・西ノ島に初めてできた図書館「西ノ島町コミュニティ図書館 いかあ屋」(以下、いかあ屋)は、2018年7月にオープンしました。
約1,000平方メートルの木造平屋の建物には、収蔵冊数最大5万冊の図書館のほか、ゆったりと本が読める「書斎」、掘りごたつのある「いこいのへや」、小さい子ども向けの「こどものへや」、海の見える窓に向かってソファーが並ぶ「縁側カフェ」など、それぞれの目的で来訪した人たちが一つ屋根の下で集える空間が広がっています。
argは、2016年に株式会社丹羽建築設計事務所の協力企業として「西ノ島町コミュニティ図書館基本計画・基本設計・実施設計業務」からプロジェクトに参加。町民の方々と一緒に、図書館づくりの伴走をしてきました。
図書館と公民館の機能を併せもつ施設
もともと西ノ島町には、図書館がありませんでした。そのため図書館を使う文化そのものがなく、ただ図書館をつくってもあまり利用されない可能性がありました。一方で公民館や寄り合いで、まちの人が集って話し合ったり、囲碁やゲームをしたり、お茶をする文化が根付いていたため、図書館と公民館の機能を併せもつような施設にしようという基本構想がつくられ、図書館の名前も『西ノ島町コミュニティ図書館』と名付けられました。
ワークショップから「縁側カフェ」へ
当初、仕様書で計画されていたワークショップは3回でしたが、その後「縁側カフェ」という、よりゆるやかな話し合いの場が始まります。
ワークショップでは、この場所で何をしたいか、どんなことができるといいかを探っていきました。しかし、急に外部のファシリテーターが来てワークショップを開催しても、参加者はなかなか本音を話しづらいため、よりゆるやかな話し合いの場として『縁側カフェ』を企画しました。。
『縁側カフェ』は月1回の頻度で開催し、お茶を飲みながら和室でまったりと話し合える雰囲気で、施設のことだけでなく、西ノ島でこういうことができたらいいよね、こうなったらいいね、という西ノ島の未来について話す場となっていきました。
『縁側カフェ』は、施設づくりの意見を聞くためではなく、開館後もつづくオープンな話し合いの場を想定してスタートしました。開館後に、「やっぱりここが違った」等、実際に施設を使ってみてわかることもあります。そういうときに、町民のみなさんが図書館について話し合える文化が根付いていることが、施設の運用のあり方そのものに関わると考えていました。『縁側カフェ』は開館後の現在も町民の方々によって運営が続けられています」
継続的なオープンな話し合いの場づくり
公共の施設のあり方については、立場や考え方の違いから、どうしても対立する意見がでてくる場合があります。
だからこそ、どのような意見をもつ人でも参加できるオープンな話し合いの場をつくり続けていくことが重要です。縁側カフェは、誰でも参加できること、どんな意見の人でも参加できることを意識して、何度も町に周知してもらいました。
島だからこそ「一人になれる場所」が欲しい
島民の方と話すなかで『島には一人になる場所がない』という意見が印象的でした。島ではどこへ行っても知り合いに会ってしまう息苦しさを感じることもある、という想いは、外部の人間にはない視点でした。
こうした想いを反映する場所として、いかあ屋の一番奥にある公開書庫に、ゆったりとした一人掛けの席をつくりました。背後に本棚があり、奥に座る人が見えないようになっています。また、書斎の席の間隔も、隣に人がいても落ち着いていられるくらいの距離感を保てるよう広めにつくられています。この距離感はこれまで島にあまり無かった距離感です。個室ではない場所でも一人になっていることを感じられるようになっています。
みんなの家
開館後、公開書庫の奥の席では、高校生がイヤホンを付けながら勉強をしている姿がありました。一方、掘りごたつのある部屋は、地元の中高生に人気で、携帯を充電しながら雑誌や漫画を読んでくつろいでいる様子は、まさに『みんなの家』の居間のような風景です。
(文 酒井直子、語り手 李明喜・下吹越香菜)
西ノ島町コミュニティ図書館 いかあ屋
https://nishinoshimalib.jp/
開館日:2018年7月21日(土)
住所:島根県隠岐郡西ノ島町浦郷67-8
面積:約1,000平方メートル
収蔵冊数:最大5万冊