小千谷市の複合施設「ホントカ。」、そしてまちについて”一緒に考える”場をつくる

図書館を核とした複合施設整備事業

新潟県のほぼ中心に位置する小千谷市では、中心市街地における「賑わい・交流・憩いの創出」を目的として、図書館を核とした複合施設の整備を進めています。
市の中心市街地に立地し、長年にわたりまちの中心として人の流れをつくってきた公益財団法人小千谷総合病院の統合移転(2017年)に伴い、その跡地の活用として、核となる図書館のほか、(仮称)郷土資料館、子育て支援、交流促進・創造機能等の多様な利用方法を想定した施設の検討が行われています。

この事業では当初、PFI手法での整備が決定していましたが、2020年の公募で選定された優先交渉権者が途中辞退したために見直しが図られることとなり、その支援を行う「官民連携支援業務」を受託するかたちでargはこの事業に参画することとなりました。
そこで、事業の見直し・検討に向けた調査・研修等とともに提案したのが、共創による施設づくりを行っていくための「小千谷リビングラボ」(仮称)の立ち上げでした。

リビングラボとは

リビングラボとは、「Living(生活空間)」と「Lab(実験室)」を組み合わせた言葉で、暮らし(日々の生活や仕事)の現場を研究開発の場に見立て、多様な主体(市民等の個人や行政、事業者、団体等)が対等な立場で考えを交流させ協働作業を行うことで、新しい社会的価値を生みだしていく場や活動のことを指します。

日本では、上記のような概念で企業や大学等の研究機関からはじまり、自治体や地域コミュニティにおける取り組みに広がっています。そのため、一概にリビングラボといっても、その目的や形態等は多岐にわたりますが、この小千谷市の事業におけるリビングラボを一言で表すと、「一緒に考える場」といえるのではないかと感じています。一度「見直し」という過程を経ることになったこの事業を、行政だけで進めるのではなく、この先施設を利用していくことになる市民をはじめ、多様な人が関わって一緒に考えることで、乗り越えられるものがあるのではないか、という一つの試みでもあります。

中心に市民、小千谷市に関心のある方を据え、それを小千谷市、官民連携アドバイザーを担うargのような事業者、設計事業者等で支えながら、まずはこの事業について、そしてゆくゆくはまち全体に関わる課題についても取り組んでいけるような持続的な体制を目指しています。

リビングラボの関係図
リビングラボとは

しかし、多様な人が「一緒に考える」ということは、それほど簡単なことではありません。特にこうした事業に関して設定される場では、どうしても参加者が「意見を出す」、行政側が「意見を受け取る」という構造になりがちです。また、そうした関係で、どの意見も取り入れるのには矛盾が生じ、たとえすべての意見を反映できたとしてもそれは本当に良いものになるのか、という点についても疑問が生じます。

施設づくり・まちづくりに取り組む際に生じる障害や不自由さも認識し、そのうえでどう乗り越えていくかも含めて一緒に考えていくことで、実現できる可能性はもっと広がっていくのではないか。そのためには、多様な主体が参加していること、またそうした異なる立場の人たちが対等に、そして自由に話すことのできる関係づくりが必要なのではないかという考えが前提にありました。

小千谷市リビングラボ「at!おぢや」の始動

小千谷リビングラボは、2020年12月6日(日)の「図書館」「地域づくりと市民協働」「子どもの未来」をテーマにこれからの施設づくりを考えるシンポジウム「まちと公共施設の未来を創造する」、2021年3月21日(日)のリビングラボ初回開催によってその活動を開始しています。

リビングラボのチラシ
リビングラボのチラシ

第1回の開催では、前段のシンポジウムのテーマ「子どもの未来」において「みんなで一緒に問い、考え、語り、聴く」行為の実践としてお話しいただいた哲学対話の方法を参照し、参加者のみなさんと一緒に、「リビングラボの在り方」について、そして、これから始まるリビングラボの愛称を考える対話を行いました。

そこで生まれた小千谷リビングラボの愛称が「at!おぢや」です。「at(アット)」には、一点に集中する、集まるという意味があり、みんなが一つの場所に集まって話し合い、最終的には老若男女が集まる施設になってほしい、また、「あっと」驚くようなアイデアが取り入れられた施設になってほしいという願いが込められています。

「at!おぢや」は2023年9月末時点で全14回の開催を重ね、内容としては、第2回(2021年度)からは施設の設計者が加わり、施設での体験を考える「つくる」ワークへ、徐々にその施設のなかで自分たちがどんなことをやっていきたいかを考える「使う・参加する」ワークへと、その内容も整備の進行に合わせて段階を進めています。また、開催の形式としても、ワークショップからゲストを招いたトークイベント、オンラインによる配信等、その時点での状況や開催によってみえてきた課題を考慮しながらプログラムを設定してきました。

リビングラボのプログラム一覧
これまでのプログラム
リビングラボで作成した模造紙

取り組みの展開と課題、「at!おぢや」の今後

このように状況や課題に合わせてその開催方法、テーマを設定し取り組んできた「at!おぢや」は、その実験的な進め方や関係性の構築に重点を置いてきたがゆえに実施の結果としての明確な“成果”といえるものがまだまだみえづらいというのが一つの課題になっているともいえます。一方で、回を重ねることで、参加者と行政職員が自然と同じ目線で対話をしている様子や、明確な目的(自身の立場による主張等)をもって参加している人も、ほかの人の言葉に耳を傾けながら対話をしている様子等、「一緒に考える」関係が構築されつつあるという確かな実感をもてるような場面にも出会ってきました。

リビングラボで人々が対話をしている様子
リビングラボの様子(撮影:arg)

本開催以外にも、中学校への出張ワークショップや、新潟工科大学との連携プログラム等、「at!おぢや」の外とのつながりや連携についての取り組みも行っています。また、at!おぢや参加者の発案で、子どもたちにもっとこの事業について知って参加してほしいという想いから、小千谷市内の小学生をはじめとする子どもたちを中心に、施設への想いを本の表紙に描いてもらう「わたしの本をつくる」プロジェクト」が生まれました。この取り組みは、新潟工科大学とも連携し、集まった絵を一冊の本としてまとめる「本づくりプロジェクト」へと展開しています。

本づくりプロジェクトの図
本づくりプロジェクト

このように、少しずつですが、「at!おぢや」を起点として、それぞれの「やりたいこと」とその活動の芽が出つつあります。しかし、立ち上げ当初に掲げたものに達するにはまだまだ道半ばであるというのが現状です。多様な人や課題と向き合う以上、結果を急ぎすぎず、しかし目指すものを見据え、「at!おぢや」が「一緒に考える」持続した場となり、さらに活動を生み広げていくための在り方や仕掛けを考え続けていく必要があります。

(文 有尾柚紀)

小千谷市図書館等複合施設

開館日:2024年9月(予定)
住所:新潟県小千谷市本町1丁目地内
面積:9,221.78平方メートル(南側坂下駐車場を含む)
収蔵冊数:最大約12万冊(仮)
小千谷市の人口:34,096人(2023年10月1日現在)